糖尿病網膜症とは
網膜組織の障害によって視力低下が生じる病気
網膜の役割
目の奥にある網膜は、目をカメラに例えると「フィルム」やデジタルカメラの「センサー」のような役割を担っています。
網膜は光を感知し、それを電気信号に変換する機能を持っており、この電気信号が視神経を通じて脳に送られます。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病患者に特有の網膜の病変です。糖尿病による長期間の血糖値の高さが網膜の血管に損傷を与えることが原因で発症します。
網膜には多くの毛細血管が広がっており、血管が詰まりやすくなっています。詰まった血管からは新生血管が生成され、眼底出血や硝子体出血を引き起こします。
この出血は、自然に吸収されていくものですが、出血によって「にごり」が生じ、結果的に視力低下を起こします。
糖尿病網膜症は、糖尿病患者における視力低下や失明の主要な原因となります。
網膜症は自覚症状が無い病気であるため、ご自身の気がつかない間に症状が進行してしまう恐れがあります。
「視力が落ちて見えにくくなってきた」と自覚症状を感じはじめたときには、かなり網膜症が進行しています。
網膜症の発症リスク
- 血糖値が200を超えている(HbA1cが7.0以上)
- 長期(5年〜10年)に渡って、HbA1cが基準値を超えている
上記に該当する方は、網膜症の発症リスクが高いため注意が必要です。
早期発見をして適切な治療を
しっかりと糖尿病の治療を行っている方、そして治療の効果が良好な方であっても油断はできません。
糖尿病を患っている期間が長くなると、糖尿病網膜症を発症する可能性は十分に考えられます。
糖尿病の方、治療中の方、糖尿病の疑いがある方は、眼科での定期検査をおすすめいたします。
早期のうちに適切な検査・治療ができれば、糖尿病網膜症の進行は抑えることができますので、一度ご相談ください。
糖尿病を患うリスク
糖尿病は、血糖値が高い状態が続く病気です。長期間、血糖値が高くなると、血液の粘性が増し、血流が悪くなることでさまざまな合併症を引き起こします。
糖尿病患者はとくに以下の3つの主要な合併症に注意が必要です。
糖尿病による三大合併症
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病腎症
- 糖尿病神経障害
以上が挙げられます。
糖尿病の合併症を予防するためには、血糖値、血圧、コレステロール値を適切に管理し、健康的な食事や適度な運動、禁煙などの生活習慣の改善が重要です。
また、定期的な検査を受けて、早期発見・早期治療が大切です。
糖尿病網膜症の進行について
無網膜症から単純網膜症への進行
糖尿病を患っている方が、必ず糖尿病網膜症になるとは限りません。眼科で網膜の検査した際に、糖尿病網膜症の発症が見られないこともあります。(無網膜症)
しかし、一般的には糖尿病を発症してから約10年ほどで、糖尿病網膜症の初期段階(単純糖尿網膜症)まで病態が進行する場合が多いと考えられています。
網膜の病状変化
正常網膜
単純糖尿病網膜症
増殖糖尿病網膜症
網膜組織に障害が生じてくると、単純糖尿病網膜症と診断されます。
眼底には
- 小さな点状出血
- やや大きめの斑状出血
- 毛細血管瘤(毛細血管が膨らんでできる塊)
- 脂肪やたんぱく質が沈着してできたシミ(硬性白斑)
- 血管がつまってできたシミ(軟性白斑)
などが、確認できます。
視力にはほとんど影響がなく、この段階で血糖値を下げるなど内科的な血糖コントロールができれば治癒できる可能性が高いです。
しかし、自覚症状がほどんどないため、成人検診や眼科で眼底検査を受けている方でない限りは、見過ごしてしまう方が大半です。
網膜血管の傷みがさらに進行すると、やがて血管が詰まっていきます。(増殖前網膜症)
さらに進行すると、新生血管と呼ばれる異常な血管や「かさぶた」の様な膜(増殖膜)が発生しはじめ、硝子体まで病変が及ぶ段階となります。(増殖網膜症)
糖尿病網膜症の検査・治療法
糖尿病網膜症の眼底検査
糖尿病網膜症の検査では、眼の奥の状態をより正確に把握するために「散瞳検査:さんどうけんさ」を行ないます。
眼の奥は暗いため、光を当てることで見やすい状態を作りますが、光を当てると瞳孔(光線が眼球の中へはいる入口)が小さくなってしまうため、それを防ぐ方法として散瞳(瞳を広げる)薬を点眼します。
点眼後(検査後)は、薬の効果がおおよそ3~4時間程度続き、一定時間の間は目が見づらい状態(まぶしさを感じる)になります。
※ 車を運転して来院された方は、散瞳薬の効果が消えるまでお待ちいただく必要があります。
糖尿病網膜症の治療法
初期症状(単純網膜症)の方
内科的な血糖コントロールによって、
- 毛細血管が詰まる
- 出血する
というような血管障害を抑えていきます。
病状が進行している方
眼底出血等が発症している場合は、レーザー治療によって新生血管の発生を防ぎます(レーザー光凝固術)。
黄斑浮腫が生じている場合は抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体硝子体内注射を行っております。
それ以上に病状が進行している方は、外科的手術による治療が必要になります。