アレルギー性結膜疾患とは
日本眼科学会が公表している「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」によると、アレルギー性結膜疾患とは、「Ⅰ型アレルギー反応を主体とした結膜の炎症性疾患であり,抗原(アレルゲン)により惹起される自覚症状・他覚所見を伴うもの」と定義されています。
痒み・異物感・眼脂が主な症状です。
アレルギー性結膜疾患の分類
アレルギー性結膜疾患は結膜の増殖性変化(結膜に強いでこぼこを来きたす変化)の有無やアトピー性結膜炎の合併などの有無によって下記のように分類されています。
アレルギー性結膜炎
結膜に増殖性の変化を伴わないもので、症状が季節性にみられるものを季節性アレルギー性結膜炎(Seasonal Allergic Conjunctivitis, SAC)と呼び、スギ・ヒノキ花粉によるものが代表的です。この他ブタクサ等の花粉が原因となることもあります。一方で症状が通年性のものを通年性アレルギー性結膜炎(Perennial Allergic Conjunctivitis, PAC)と呼び、ハウスダストや室内のホコリ、ペットの毛等が原因となります。
アトピー性角結膜炎(Atopic Keratoconjunctivitis, AKC)
顔面にアトピー性皮膚炎がみられる方に慢性にみられるアレルギー性結膜疾患です。結膜の線維化、角膜の新生血管・混濁がみられることが多いです。急性増悪時以外では増殖性変化は伴わないことが多いです。
春季カタル(Vernal Keratoconjunctivitis, VKC)
結膜に増殖性の変化を伴うアレルギー性結膜疾患です。点状表層角膜症、角膜びらん、シールド潰瘍などの様々な角膜病変を伴うことが多いです。アトピー性皮膚炎を合併することがあります。
巨大乳頭結膜炎(Giant Papillary Conjunctivitis, GPC)
コンタクトレンズ、義眼、手術用縫合糸等による慢性的な結膜への刺激とアレルギー性炎症を伴い、上まぶたの結膜に増殖性変化が認められます。上まぶたの結膜の変化は一見春季カタルに似ていますが、結膜乳頭の形が異なる・角膜病変をほとんど伴わない・刺激の原因になっているものを取り除くと速やかに改善する点で区別できます。
アレルギー性結膜疾患の自覚症状
代表的な症状は以下の通りです。
- 痒み
- 異物感(ごろごろ感)
痒みのかわりに訴える場合や、結膜乳頭がまばたきの際に角膜(黒目)に触れることで自覚する場合があります。 - 眼脂(めやに)
結膜から分泌されるムチンが主体で、白色または半透明で糸を引くようなめやにが特徴的とされています。
アレルギー性結膜疾患の臨床評価基準
以下について細隙灯顕微鏡を用いて判定します。
1 瞼結膜(まぶたの裏の結膜)
- 充血
- 腫脹
- 濾胞
- 乳頭(増殖性の有無を判定するのに重要です。)
※ 特に充血と乳頭の程度に注意して観察を行います。
2 球結膜(白目の結膜)
- 充血
- 浮腫
3 輪部(黒目と白目の境目)
- Trantas(トランタス)斑(増殖性の有無を判定するのに重要です。)
- 腫脹
4 角膜(黒目)
角膜上皮欠損の程度を基に重症度判定を行います。
アレルギー性結膜疾患の診断
-
A 臨床診断
→ アレルギー結膜疾患に特有の自覚症状と他覚所見がある。 -
B I型アレルギー素因がある
→ 涙液中の総IgE抗体陽性または血清抗原特異的IgE抗体陽性、または推定される抗原と一致する皮膚反応陽性 -
C 結膜でのI型アレルギー陽性
→ 結膜擦過物中の好酸球陽性
のうち、A+Bで臨床的確定診断、A+B+CまたはA+Cで確定診断となります。
しかし実際にはAのみで診断を行い、抗原の特定が必要な場合にBを行っていることが多いです。
アレルギー性結膜疾患の治療
基本的には薬物療法が主体となります。
1抗アレルギー薬点眼
A メディエーター遊離抑制薬
肥満細胞の脱顆粒を阻害することでI型アレルギーの即時相反応を減らし、また炎症細胞の結膜への浸潤を抑えることで遅発相反応も減らします。
代表的な薬剤
リザベン® ゼペリン®
B ヒスタミンH1受容体拮抗薬
ヒスタミンH1受容体をブロックすることで、充血や痒みを抑えます。
代表的な薬剤
ザジテン® リボスチン® パタノール® アレジオン® アレジオンLX®
2 ステロイド薬
広範な炎症抑制作用があり、抗アレルギー薬点眼のみでは効果が不十分な場合に追加の点眼として使われます。
副作用としては眼圧上昇、眼感染症、白内障などがあり、特に小児では眼圧上昇に注意が必要です。
3 免疫抑制剤
VKCの治療薬として認可された点眼で、シクロスポリンとタクロリムスの2種類があります。AKCの治療に使われる場合もあります。
この他に点眼・内服を行っても改善がみられないVKCの結膜乳頭増殖に対して乳頭切除術を行ったり、VKCに合併する角膜プラーク(角膜に白い沈着物が生じてしまう)を除去したりする場合があります。
治療法の選択
1 SAC
抗アレルギー点眼薬が第一選択となります。症状が強い時期にはステロイド点眼薬または非ステロイド系点眼薬を併用します。
花粉飛散予測日の概ね2週間前、または少しでも症状が現れた時点で抗アレルギー薬点眼を使い始めると花粉症飛散ピーク時の症状が軽減されます(初期療法)。
この他、花粉防御用メガネの着用(通常のメガネでも効果が期待できます)、コンタクトレンズの装用中止(メガネへの切り替え)、洗眼(防腐剤を含まない製剤が望ましいです)、家の中に花粉を持ち込まないようにする、等の対策も有効です。
2 PAC
SACと同様に抗アレルギー点眼薬から開始し、効果不十分な場合にステロイド点眼薬または非ステロイド点眼薬を併用します。また、室内ダニが原因となることも多いため、室内を常に清潔に保ち、通気性を良くすることを心がけます。
寝具類は天日干しし、その後掃除機でダニを取り除くことが推奨されますが、天日干しが難しい場合は、週1回程度吸い込みノズルをつけた掃除機をかけることである程度代用できます。また空気清浄機の設置も有効です。
3 アトピー性角結膜炎(AKC)
他の疾患同様、第一選択は抗アレルギー点眼薬になり、効果不十分な場合はステロイド薬や免疫抑制剤点眼を併用します。
顔面のアトピー性皮膚炎、特にまぶた(アトピー性眼瞼炎)の治療が不十分であると治りにくいことが多いため、皮膚科専門医と連携した治療が重要です。
4 春季カタル(VKC)
抗アレルギー点眼薬のみで効果不十分の場合は免疫抑制剤点眼を併用し、それでも効果が不十分な場合はステロイド点眼薬を追加します。これでも効果不十分な場合はステロイド内服薬投与、瞼結膜へのステロイド注射、結膜乳頭切除を検討します。
症状が改善した後は免疫抑制剤のプロアクティブ療法(症状をみながら投与量を減らし、少量の維持量を続ける治療法)や抗アレルギー薬点眼のみで経過をみます。
5 巨大乳頭結膜炎(GPC)
コンタクトレンズが原因と考えられる場合は、原則として装用を中止しますが、レンズケアが不十分で発症することもあるため、その場合はこすり洗いの徹底やケア用品の変更、あるいは使い捨てコンタクトレンズへの変更を行うことがあります。
他疾患同様に抗アレルギー薬点眼から開始し、効果不十分の場合はステロイド点眼を併用します。